ほんじゃーねっと

おっさんがやせたがったり食べたがったりする日常エッセイ

名探偵になるためだから

年齢を重ねるにつれ、何かを続けることの大事さというのをひしひしと感じるようになる。今の自分に残っているものが「やめなかったこと」だけだと分かってくるからだ。

そうなると何かを新しく始める場合も必然的に「長く続けること」を前提として考えることにわけで、長く続けるとなると当然それなりに時間なりお金なりを使うことになるわけで、結果それを始めることが今後の自分や家族の生活にどのような影響を与えるかを考えたり話し合ったりして決める必要が出てくるわけで…。 時にそれが家族との絆の強さなり弱さなりを垣間見せるものになったりする。

我が家では土曜日の夕方は「名探偵コナン」を観ることになっている。

妻と娘たちが好きで毎週観ているのだ。私はたまに見逃すのだけど、サザエさんとちがって人間関係がどんどん変化していくので、大事な回を見逃すと初めて見るキャラが主要キャラと仲よさげにしていたりして「ええっ、この二人付き合ってんの!?」と戸惑うことになる。コナン視聴もまたサボらず継続することが大事なのだ。

今週も知らんキャラが何人もいて戸惑う私を置いてけぼりにしつつ、コナンくんはあいかわらず大人顔負けの大活躍をしていた。刑事さんたちも慣れたもので、小学生が事件を解決してしまうことについてもはや何の疑問も感じなくなっている。困った時も上司に電話するより先にコナンくんに電話して助けを求めていた。

コナンくんは「この匂いは!?それを飲んじゃダメだ!」と毒殺を回避し、「あれれーなんだかこっちから甘い匂いがするよー」と隠された証拠品を見つけ出し、着々と事件を解決へと導いていく。

コナンくんは鼻が異常なほど利く。 事件を嗅ぎつけ、証拠を嗅ぎ出し、犯人を嗅ぎ分ける。コナンくんの事件解決能力はもしかしてその鼻の嗅覚に支えられているのではあるまいか。

あの嗅覚がなかったらきっと事件解決までもっと時間がかかっていたことだろう。毎週30分の間に殺人事件を解決するのは常人には難しい。

そんなことを考えていたらちょっと心配になってきた。

米花町では毎週のように事件が起きているが、事件は米花町でしか起こらないわけではない。うちの家族だっていつか黒の組織的な組織に狙われる可能性がないでもないのではないか。

しかしこの町にコナンくんはいないし、私の嗅覚は鈍い。

その代わりにといってはなんだが妻は私よりも100倍くらい嗅覚が鋭く、私がちょっとでも匂いを発していると遠くにいてもすぐに気づいて「クサッ!クサいよ!?」と強めに教えてくれる。もしかしたら彼女こそわが町のコナンくんなのかもしれない。

だが妻の嗅覚はあくまで私への愛ゆえの、私の匂い限定の能力である可能性がある。それに妻は仕事があるしいつでもそばにいるとは限らない。たとえば今のような夏休み期間中などは在宅勤務で家にいる私が子どもたちを守らねばならないのだ。

やはりここは私自身が嗅覚を鍛えるしかあるまい。

そんな使命感と家族愛に突き動かされた私はすぐにワインを買いに走った。

事件といえば毒殺。毒殺といえばワイン。 そこにワインがあるだけで犯人は毒を入れたくなるし、被害者はなぜかそれを飲みたくなってしまう。ならばまずは何をおいてもワインの香りに慣れ、不自然な香りを嗅ぎ分けられるようになっておくべきだろう。 そもそも自分以外の家族は酒を飲まないのにワインに気をつける意味があるのかって?もうワインを買ってしまったのだ。そんな正論こそ意味がないので捨ててしまいなさい。

ワインには複雑な香りが含まれており、精通するとそれらの香りが嗅ぎ分けられるようになると聞く。つまり現時点では赤ワインの香りをただ「赤ワインの香りだね…」としか認識できない私の嗅覚も、毎日香りを嗅ぎ続けるうちに鍛えられ、微細な香りを嗅ぎ分けられるようになるのだ。 そうなれば飲み物にこっそり混ぜられた睡眠薬や毒薬だって簡単に看破できるはずである。

もちろん私にも迷いはある。本当にワインで良いのか?たまには日本酒や焼酎を挟んだ方がよいのではないか? そこは追って検討したい。

大事なのはこの習慣を継続すること。コナンを観続けないと登場人物が次々増えていくのについていけないのと同じ。飲み続けないとワインというものを真に理解することはできないのだ。 ただ飲みたいだけじゃないの?と鋭い指摘を受けるかもしれない。酔っ払って倒れてしまうこともあるかもしれない。そんな辛い目に合うことも予想されるが、家族のために頑張るつもりである。

…とこんな感じで説明すれば毎晩晩酌にワインを飲むことを正当化できるのではないかと目論んで妻娘に話していたのだけど。 途中で興味を失ったらしく「ワインを買いに走った…」あたりから誰も聞いていなかった。その後が聞いてほしいところだったのだが。